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新潟地方裁判所 昭和61年(行ウ)7号 判決

新潟県十日町市卯九三七番地

原告

赤沢チカ

右訴訟代理人弁護士

足立定夫

同県同市字子三七七番地の一

被告

十日町税務署長

平林六郎

右指定代理人

杉山正己

大原豊実

秋山弘

辻徹

清水利雄

下山保司

右当事者間の所得税更正処分等取消請求事件につき、当裁判所は昭和六二年一一月二七日に終結した口頭弁論に基づいて次の通り判決する。

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立て

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対して昭和五八年一二月一九日付けでした原告の昭和五七年分所得税の更正及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨の判決を求める。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告の昭和五七年分所得税の課税経緯は別表一に記載の通りである。

2  しかしながら、原告の同年分の分離長期譲渡所得金額は同表番号1の確定申告の通りであるから、同表番号2の更正処分(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件賦課決定」という。)は違法である。

3  よつて、本件更正及び本件賦課決定の各取消しを求める。

二  請求の原因に対する認否

1  同1は認める。

2  同2は争う。

三  被告の主張

1  本件更正の根拠

(一) 総所得金額

原告の昭和五七年分の総所得金額は六〇万円(不動産所得五万円と給与所得五五万円との合計額)であつた。

(二) 分離長期譲渡所得

(1) 原告は昭和五七年五月一一日、租税特別措置法(以下「措置法」という。)三一条により他の所得と区分して課税されるべき長期譲渡所得として五二二二万七〇〇〇円の収入を得た。

(2) 原告は措置法三七条に規定される買換資産として、同年中に別表三記載1の資産を取得し、翌年中に同表記載2の資産を取得する見込みであつた。取得価額ないしその見積額は合計二八〇四万六五四七円である。

(3) 以上の事実に措置法三一条の四第一項本文、三七条一項一四号四項を適用すると、原告の分離長期譲渡所得金額は、別表二に記載の通り二二九七万一四三二円となる。

なお、本件更正においては右金額を二二九七万一四三六円と算定しているが、二二九七万一四三二円が正当である。この結果、本訴において主張する分離長期譲渡所得金額は、本件更正の金額と比較して、四円だけ減少することとなるが、国税の課税標準を計算する場合において、その額に一〇〇〇円未満の端数があるときは、その端数金額を切り捨てる(国税通則法一一八条一項)こととされているため、本件の場合の課税標準となる右主張のいずれの場合においても二二九七万一〇〇〇円となり異動を生じないこととなるから、右本件更正における誤算を同更正の一部取消しにより是正する必要はない。

2  本件更正の適法性

1に記載の通り、原告の昭和五七年分の総所得金額は六〇万円、分離長期譲渡所得金額は二二九七万一四三二円であり、端数処理後の課税標準額及び税額は、本件更正に係る金額と同額になるから、本件更正は適法である。

3  本件過少申告加算税賦課決定の適法性

被告は、原告が本件更正によつて納付すべきこととなる税額一一六万四六〇〇円(昭和五九年法律第五号による改正前の国税通則法二八条三項の規定により一〇〇〇円未満の端数切捨て)を計算の基礎として、同法六五条一項に基づき、右金額に一〇〇分の五の割合を乗じて過少申告加算税五万八二〇〇円(同法一一九条四項に基づき一〇〇円未満の端数切捨て)を算出し、これを賦課決定したものであるから、本件過少申告加算税賦課決定は適法である。

四  被告の主張に対する原告の認否

1  同1のうち、(一)及び(二)(1)(2)は認めるが、(二)(3)は争う。

2  同2、3は争う。

五  原告の再主張

1  従前、原告の夫である赤沢栄作(以下「栄作」という。)は別紙物件目録記載一(一)(二)の各土地(以下「本件一の土地」という。)を、原告は同目録記載二(一)ないし(三)の各土地(以下「本件二の土地」という。)をそれぞれ所有していた。

2  原告と栄作は昭和三五年、本件一、二の土地上に居住及び営業用の家屋を建築したが、昭和四四年にこれを撤去し、株式会社まると(以下「まると」という。)に対し、右土地を賃貸してその地上に別紙物件目録三記載の建物(以下「本件建物」という。)を建築させ、土地を賃貸したことの対価としてその五階部分の所有権を取得し(栄作と原告が、それぞれその所有する本件一、二の土地の面積の割合に従つて五階部分の共有持分を取得した。)、以来居住用家屋として使用してきた。

3(一)  栄作は、栄作本人兼原告代理人兼まると代表者として、佐藤一郎に対し、昭和五七年五月一一日、本件一、二の各土地と本件建物を売り渡した。

(二)  それ故、原告はその居住の用に供している家屋(五階部分の共有持分権)とその敷地の用に供さている土地(本件二の土地)を譲渡したことになる。被告の主張1(二)(1)記載の収入はその代金であり、したがつて、ここで措置法三五条一項が適用されるべきである。

4  原告は、別表一番号1の確定申告をした際、同条一項の適用を受けようとする旨(同条二項)を確定申告書に記載した。

5  しかるに被告は、その適用を認めず、本件更正及び本件賦課決定をした。

六  原告の再主張に対する被告の認否

1  同1は認める。

2  同2のうち、原告と栄作が本件建物の五階部分をその居住の用に供していたことは認めるが、原告と栄作が五階部分の所有権(共有持分権)を取得したことは否認し、その余は知らない。

3  同3(一)は認めるが、同(二)は争う。被告の主張1(二)(1)記載の収入は本件二の土地のみの譲渡代金である。

4  同4、5は認める。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載の通りである。

理由

一  請求の原因1、被告の主張1のうち(一)、(二)(1)(2)及び原告の再主張1の各事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、原告の再主張2の事実のうち、原告と栄作が本件一、二の各土地をまるとに賃貸したことの対価として五階部分の所有権(共有持分権)を取得したことの主張事実が認められるか否かについて検討することにする。

1  成立に争いのない乙第七号証及び証人赤沢栄作の証言によれば、本件一、二の土地上には昭和三五年に建築された原告所有名義の居住及び営業用家屋が存在したが、栄作と原告は昭和四四年にこれを撤去し、まるとをして右土地上に本件建物を建築させたこと、まるとは本件建物建築の直前に設立された比較的小規模な会社(資本金は三〇〇万円)であつて、代表取締役は栄作であり、株主は栄作、原告及びその他の家族、親族のみであること、それ故栄作と原告は、まるとは自分達の会社であつて、まるとが独立の法人格を有することは単なる形式に過ぎないと考えていたこと、以上の事実が認められる。

このような場合、栄作と原告がまるとに本件一、二の各土地を賃貸し、その対価として本件建物の五階部分の所有権を取得したとしても、格別不自然ではない。しかし、そうではなくて、栄作と原告がまるとに対し右各土地の無償使用を許諾し、または賃貸したが、対価は何ら取得しなかつたとしても、これまた決して不自然ではないのであつて、要するに、右の事実だけではいずれとも決し難いというほかない。

2  証人赤沢栄作は原告の主張に沿う供述をするが、右供述にはその裏付けとなる的確な資料が存在せず、単に主観的憶測を述べるものとして採用できず、他に原告の主張事実を認めるに足りる証拠はない。却つて成立に争いのない乙第一、第三ないし第五号証、原本の存在と成立に争いのない同第二号証、弁論の全趣旨により成立の認められる同第一三号証、赤沢栄作の証言及び弁論の全趣旨によれば以下の事実関係が認められるから、本件建物五階部分の法律上の所有者はまるとであると判断される。

(一)  五階部分は他の階同様、独立して区分所有登記がされているが、その登記は当初からまるとの名義じ行われ、佐藤に売却されるまで所有名義人は変更されなかつた。

(二)  まるとは、栄作から昭和四九年七月三一日以降毎月、当初は二万円、その後は三万円の家賃名目の金員の支払を受けていた。

(三)  本件建物完成直後から栄作と原告が五階部分に居住を開始する直前までは、株式会社凌雲閣松之山ホテルがこれを賃借していたが、賃貸借契約書の賃貸人はまるとであつた。

(四)  まるとは五階部分を含む本件建物についてその取得価額を貸借対照表の資産の部の建物勘定に計上し、固定資産として各事業年度ごとに減価償却の計算をした上法人税の確定申告をしていた。

(五)  まるとの貸借対照表の資産の部には、五階部分の価額が借地権取得価額として計上されていない。

(六)  本件一、二の各土地と本件建物が佐藤に売却された際の契約書によれば、本件建物の所有名義人はまるとであつて、五階部分の所有者がまるとでない旨の記載は存在しない。

(七)  まるとは本件建物の譲渡益全額を固定資産売却益とする法人税の確定申告をした。

(八)  原告は本件二の土地のみを譲渡所得の申告の対象とし、五階部分については右申告の対象としていない。

三  以上の事実及び判断によれば、原告が本件建物五階部分の所有権(共有持分権)を有していたと認めるに足りないので、これを前提とする原告の請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 吉崎直彌 裁判官 西野喜一 裁判官 村上正敏)

物件目録

一 赤沢栄作所有名義分

(一) 十日町市字東四の町卯一番

宅地 三七・三三平方メートル

(二) 十日町市字田中卯五五番

宅地 六七・一〇平方メートル

二 原告所有名義分

(一) 十日町市字東四の町卯二番

宅地 九三・六五平方メートル

(二) 同所卯三番五号

畑  一九・〇〇平方メートル

(三) 同所卯三番、一号

宅地 一三三・五八平方メートル

三 株式会社まると所有名義分

十日町市字東四の町卯三番地一、卯一番地、卯二番地、字田中卯五五番地所在

家屋番号(専用部分) 三の一の一 三の一の二 三の一の三 三の一の四 三の一の五 三の一の六

構造 鉄筋コンクリート造陸屋根 地下一階付六階建

床面積 一階 三〇一・七一平方メートル

二階 三一一・六五平方メートル

三階 三一一・六五平方メートル

四階 三一一・六五平方メートル

五階 二一一・二四平方メートル

六階 六五・三二平方メートル

地下一階

二八七・三三平方メートル

別表一

本件課税処分等の経緯

〈省略〉

別表二

分離長期譲渡所得金額野算定根拠

〈省略〉

別表三

買換資産の明細表

〈省略〉

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